昆虫の世界

             ごあいさつ


 地球以外の太陽系の惑星にまったく生き物が見られないことを考えてみると、地球が生き物に満ちた稀有な惑星であることがよくわかります。地球に生息するさまざまな生き物の中でもっとも種数の多いグル-プが昆虫(節足動物門、昆虫綱)です。Hammond (1992) によると、名前が付けられたすべての生き物 159万6千種の中で、昆虫はほぼ60 %(95万種)を占めています。昆虫の次に多い25万種の植物、あるいはその次に多い12万5千種の昆虫以外の節足動物(甲殻類、多足類など)と比べてみると、昆虫が際立って多いことがよくわかります。
 化石の証拠から、昆虫が地球上に現れたのは古生代デボン紀の初期,4億年以上昔のことであると考えられています。ただし、その頃の昆虫は現在のトビムシやシミに近い原始的なグル-プ(無翅昆虫)であり、 翅をもつ昆虫(有翅昆虫)が出現したのはデボン紀の中期頃です。昆虫は空中に生活の場を広げた唯一の無脊椎動物で、最古の飛翔脊椎動物、翼竜(翼をもつ爬虫類)の出現に先立つ1億年以上昔に翅を獲得しました。昆虫が翅を獲得してから3億5千万年以上の時が過ぎ、現生の昆虫綱は31目(もく)に分けられていますが、無翅昆虫はわずか4目しかなく、翅を獲得したことが昆虫の飛躍的な適応放散と進化の原動力になったことはまちがいないようです。
 人間の生活と密接に関連している昆虫には人間に対する利害関係から害虫または益虫と呼ばれるものが存在します。農作物や林木などの農林生産物はさまざまな害虫の脅威にさらされていますし、ウイルス、細菌、原虫などさまざまな病原微生物の媒介者になる衛生害虫も私たちや家畜の生命を脅かしています。このように多くの害虫がいる一方、私たちの生活に不可欠な益虫もいます。例えば害虫の捕食者や寄生者となっている天敵昆虫は非常に多いです。また、カイコガの幼虫がつくるまゆは絹織物の原料になりますし、ミツバチが花蜜から作る蜂蜜は私たちの貴重な食料です。また東南アジア、ニュ-ギニア、アフリカなどでは今でもさまざまな昆虫が貴重なタンパク源として常食されています。さらにさまざまな訪花昆虫が花粉媒介者(ポリネ-タ-)として植物(虫媒花)の繁栄を支えています。
 今回の展示では、このようなさまざまな側面を持つ昆虫の世界をほんのわずかではありますが紹介したいと思います。

香川大学農学部昆虫学研究室(市川俊英)