戦後まもなく岩田久二雄博士がみた香川県の昆虫

 岩田久二雄博士(1905-1994)は、単独性カリバチ類の比較習性学研究と、さまざまなハチ類の繁殖習性の研究に取り組み、その成果をまとめた大著「本能の進化ーハチの比較習性学的研究」や、さまざまな昆虫の生活の様子を魅力的な文章でつづった「自然観察者の手記」など、多くの著作で知られる世界的に著名な昆虫学者です。
 岩田先生は、戦後まもなく海南島から復員後、1947年に香川大学農学部の前身である香川県立農業専門学校の昆虫学初代教授として赴任し、三木町平木に住んでいました。岩田先生の在任期間はわずか2年にすぎず、すぐに丹波笹山に設立された兵庫県立農科大学(現・神戸大学農学部)に移籍しました。
 短い期間でしたが、三木町を中心に頻繁に野外調査にでかけ、さまざまな昆虫の行動や生態を記録し多数の論文を発表しています。

1980年、坂上昭一先生との対談の際の岩田久二雄博士。「アニマ」1980年4月号より、平凡社とご遺族の許可を得て転載。

兵庫県立人と自然の博物館に保管されている岩田先生が香川県で採集したイラガの寄生蜂・イラガセイボウの標本とラベル。香川県では、イラガの天敵とミノガ類の天敵の研究を精力的におこなっていました。
 岩田先生の足跡を著作と標本からたどったところ、香川の2年間でカリバチの習性研究から天敵昆虫やハチ目の卵巣構造の比較研究へテーマを転換しており、岩田先生の研究人生の中で重要な時期だったようです。
 私たちは、岩田先生が調べた昆虫が今も生息しているのかを調べ、三木町の自然の変遷を明らかにしようとしています。



香川大学農学部昆虫学研究室(伊藤文紀)