日本で栽培されているオリーブの宿敵
オリ-ブアナアキゾウムシ

 オリ-ブは油料作物および果樹として世界的に重要なモクセイ科の常緑植物で、旧約聖書創世記ノアの方舟の神話から、ハトと共に平和のシンボルとしても広く知られています。『昆虫記』で有名なファーブルが自国フランスをオリ-ブの国と呼んでいるように、フランス、イタリア、スペインなど南欧が世界最大の産地になっています。原産地は小アジアから中東の地中海沿岸地域と考えられており、日本を含む東アジアには元々分布していません。日本で初めて油脂生産のためのオリ-ブ栽培を考えたのは讃岐の生んだ奇才、平賀源内でした。紀州(今の和歌山県)で自ら発見したオリ-ブによく似た木をオランダ人に見せたところ、オリ-ブにまちがいないのとの鑑定結果を得ました。実際はオリ-ブではなかったのですが、その木には今もオリ-ブの木(ポルトガルの木)を意味するホルトノキという和名が付けられています。日本で公的にオリ-ブ栽培が開始されたのはそれから約150年後、今からちょうど100年前の1908年(明治41年)、偶然のことですが源内の生まれ故郷のこの地、香川県(小豆島)でした。
 その後、香川県ではオリ-ブの栽培面積が次第に拡大し、県花・県木にも指定されて保護・育成され、小豆島を中心に県内各地に植栽されて現在に至っています。このようにして香川県に定着したオリ-ブですが、導入直後から栽培の最大の障壁となったのがオリ-ブアナアキゾウムシでした。このゾウムシは世界の主要なオリ-ブ生産地域には見られない日本に土着の種で、元々はオリ-ブと同じモクセイ科の野生植物、ネズミモチやイボタノキを寄主植物としていたものです。本種がそれらの野生植物を枯死させるという記録はなく、オリ-ブの導入以前はゾウムシ類の分類学者しか知らないような昆虫でした。しかし、本種に対する抵抗性がないオリ-ブでは加害を放置しておくと常に多発し、成木でも数年で枯死してしまうため,継続的な防除が必要になります。環境への影響を考えると、殺虫剤の散布は最小限にすることが大切です。その点を考慮して昆虫学研究室と香川県農業試験場小豆分場で共同研究を行った結果、成虫の潜伏場所であるオリ-ブの地際部(根元)周辺を常時裸地状態にしておくことが発生を抑制するために有効であることが明らかになってきました。

市川俊英(農学部)