(2)擬態 |
昆虫のなかには体のかたちや色、模様を樹皮や木の葉などに似せて天敵から身を隠すものがいます。これを隠蔽的擬態(いんぺいてきぎたい:いわゆる保護色)といいます。木の枝そっくりのナナフシはもちろん、派手な色彩のタマムシも実際の野外の生活環境のなかでは背景にとけ込んで上手に姿を隠しています。
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幼虫期に有毒な物質を含む植物を食べている種は成虫になっても体内にその毒を保有しており、天敵の鳥などがこの虫を捕食するとまずくて吐きだしてしまうものがいます。このような味の悪い種は鮮やかで派手な色彩をしていることが多いです。これはいったん味の悪さを経験した天敵が、色の鮮やかさと関連づけて学習するため、再びその種を襲わなくなる効果があります。
このような色彩やデザインを警告色(警告シグナル)と呼びます。たとえば多くのハチ類は黄色と黒の縞模様を持ち、自分が有毒で危険であることを警告しています。また多くの蝶類が美しいのは、自分は効率の悪い餌である(速く巧妙に飛ぶので捕らえにくく、苦労して捕らえたところで食べられる部分=胴体が小さい)ことを警告して捕食者に攻撃を思いとどまらせているのだという説もあります。
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また有毒で警告色を持つ昆虫(モデルといいます)に、無毒な昆虫(擬態者またはミミックといいます)が姿を似せて、天敵の誤認によって身を守る方法を標識的擬態(ひょうしきてきぎたい)と呼びます。毒針を持たないアブの仲間には、ハチそっくりの黄色と黒の縞模様を持つ種はたくさんいます。
今回の展示のなかで、アサギマダラ(マダラチョウ科)は警告色、カバシタアゲハ(アゲハチョウ科)は標識的擬態の好例です。まったく系統の異なるこの2種がここまで類似するのは、少しでもよく似ている擬態者ほど、生き延びる確率が高いという自然淘汰の長い蓄積があったからでしょう。つまりこれほど似ていないと見破ってしまうほど識別能力の高い天敵(主に鳥類)の脅威が常に存在し、擬態者との間で共進化(軍拡競争)してきたことを暗示しているのです。
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